雑誌 売れるワケ、売れないワケ 「読者目線」で明暗
広告収入の減少から休刊が相次ぐなど苦境が続く雑誌業界で、部数を伸ばす雑誌と、減少に歯止めがかからない雑誌の明暗が分かれてきたことが、日本ABC協会が発表した「雑誌販売部数発行社レポート」で浮き彫りになった。情報をインターネットから手軽に入手できる時代にあって、購入する気を起こさせる要素を探ると、浮かび上がるキーワードは?
レポートによると、昨年下半期の雑誌発行部数が前年同期に比べて伸びたのは39誌。一方で106誌が下回った。
好調なのは宝島社の女性誌。30歳代がターゲットの「InRed」は前年同期比で倍増。20代後半が対象の「sweet」も65%増となった。
ポーチなどの付録が魅力なうえ、同社の桜田圭子広報課長は「毎号を“新商品”と位置づけ、特別定価として価格を変更。ページ数を増減させるなど、お得感と新鮮さを感じてもらえるようにした」という。
女性誌の中でも、表紙のモデルが若い女性のファッションを牽引(けんいん)した小学館「Can Cam」は24・3%減の約34万6000部、光文社「JJ」も24・1%減の約11万部と低迷。ひところのモデルブームの退潮が影響したようだ。
■生活密着の「質と量」
一方、昨年秋のリーマンショック以降、経済ニュースへの関心が高まったのを反映して「週刊東洋経済」が9・8%増、「週刊ダイヤモンド」が9・5%増と着実に部数を伸ばした。
東洋経済新報社のマーケティング担当者は「『自動車壊滅』といったタイムリーな特集を、新聞やネットには負けないボリュームと質で読者に届けられたのが勝因。格差社会や医療といった生活密着型の問題に着目した特集も人気だった」と明かす。小学館の「週刊ポスト」(15・9%減)や講談社の「週刊現代」(20・6%減)など総合週刊誌は軒並み落ち込んだ。「Tokyo Walker」(19・0%減)といった情報誌も部数を減らした。
出版物の調査機関「出版科学研究所」の研究員、久保雅暖(まさはる)さんは「総合誌では男性から女性に対象を広げるリニューアルに失敗し、読者が離れたケースが多い。特ダネが誌面を飾っても、ネットで見出しを見れば事足りると、反応しなくなった」という。
■広告主を意識…脱却
雑誌業界は、1990年代後半から広告収入の落ち込みで部数が減少、雑誌全体の販売額も前年割れが続いている。
久保さんは「広告主を意識した誌面作りをしてきた雑誌のように、読者の目線を忘れていたものは淘汰(とうた)されるようになってきた」と指摘。読者が読みたいときに読めるよう、ネットで期間限定で無料購読できる仕組みを試みたり、スローライフ系のムック(雑誌と書籍を合わせた性格を持つ刊行物)に活路を見いだす動きが出てきたことをあげ、「不況を勝ち抜くには、読者の目線に立つ雑誌を届けることが不可欠」と雑誌業界にエールを送っている。
(2009年5月26日 産経新聞)