【なぜ本は売れないのか】 (下) 新刊点数が増え、どれを手に取ればいいのか

■ランキングの罠

 詩人でエッセイストの木坂涼さんは言う。

 「書店にいってもこれはという本が手に入ることはめったにない。私の場合は、はやっているものを読みたいという読書ではないので最近は本を求めるのはもっぱら古本屋さん。そこでいい本がみつかると、それが私にとっての新刊です」

 自身の価値観がはっきりしているからこその言葉だろう。

 本が売れない。その理由にはさまざまな見方がある。趣味の多様化、ネットの普及、新古書店の成長、書棚を置けない住宅事情…。少ないパイを奪い合うように加速する“新刊洪水”現象のなかで、読み手の選択眼の低下を懸念する声もある。

 三省堂書店神保町本店次長の岸本憲幸さんは「全体の売り上げが落ソてもベストセラーが生まれるのは、テレビなど他のメディアの影響がとても大きい。昔は、自分の見識で読みたい本を選ぶ人が多かったと思うのですが、いまは何を読んだらいいかわからない人が増えてきている」と話す。

 出版ニュース社の清田義昭代表も「いまはベストセラーのランキングをみて本を買う人が多い。消費者が惑わされてしまっている部分がある」と指摘する。ランキングは数量を示しているだけで、内容を保証するものではないのだが、「売れている」という言葉には「買っても安心」といったニュアンスがつきまとう。

 そして「ふだん本をほとんど読まない人が、どれだけ買いに走るか」がベストセラーを決める。個人的体験であるはずの読書に、ベストセラーであるかどうかは無関係なのだが…。

■「本を見る目」養う

 「一面の棚だけ見れば本屋さん。みなさん入ってから驚かれます」

 東京・羽田空港内に今年2月にオープンした土産物店「Tokyo’s Tokyo(トーキョーズ・トーキョー)」。店員の三浦聖未(さとみ)さんによると、土産物や旅行グッズとともに売られている本は100点をゆうに超える。

 ユニークなのは品ぞろえだ。こういう場所にありがちな旅行ガイド本は見あたらない。ベストセラーのランキングとも無縁。旅先の雰囲気や商品のイメージから連想される小説やエッセー、写真集が、雑貨や旅用品のそばにさりげなく置かれている。

 例えば、東北に旅立つ人向けに宮沢賢治「風の又三郎」や伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」。中国地方の棚に並べた桜庭一樹の小説「少女には向かない職業」は、仕入れたそばから売り切れるヒット作になった。

 同店の本選びを担当したのはブックディレクターで「BACH」代表の幅允孝(はば・よしたか)さんだ。「今は新刊点数が増えすぎて、読者はどれを手に取ればいいかわからない状態。紹介の仕方を工夫して本の見え方を変えることで、埋もれてしまいがちなものにも光を当てたい」と話す。

 「本棚の編集人」を自称する幅ウんのもとには、売り上げ不振に悩む既存の書店に加え、異業種店からもプロデュースの依頼が頻繁に舞い込む。一風変わった新ビジネスは、「本はどこで買っても同じ」という、これまでの常識を変えてしまう可能性も秘めている。

 読み手がそれぞれに「本を見る目」を養い、冒頭の木坂さんのように言い切れる人が増えたとき、新しい出版流通システムのかたちもまた見えてくるはずだ。

(MSN産経ニュース 2009年9月22日)