2009/09

自殺予防協会 近藤治郎牧師が「徳島いのちの電話」で保健文化賞

県自殺予防協会、保健文化賞を受賞

 「徳島いのちの電話」を主宰する社会福祉法人・県自殺予防協会が、保健衛生の向上に尽くした団体・個人に贈られる「第61回保健文化賞」(第一生命保険相互会社主催、朝日新聞厚生文化事業団など後援)を受賞した。深刻な悩みを抱えた人の相談に乗る活動を始めてから、今年でちょうど30年。近藤治郎理事長(70)は「相談者から寄せられるお礼の電話や手紙に支えられてきた」と受賞を喜んでいる。

 いのちの電話は、徳島、美馬、阿南、三好の4市にある事務所で、約110人のボランティアが交代で相談に応じている。夫婦の不和や仕事のストレス、失業、借金、いじめ……。昨年の相談件数は1万5347件。うち「死にたい」など自殺志向が見られたのは589件あった。

 開設は79年7月。徳島市昭和町7丁目のキリスト教会「希望館」の牧師でもある近藤理事長が、自宅の一室で始めた。76年ごろ、当時近藤さんが通っていた教会を訪ねてきた、20代の女性との出会いが原点だった。

 「自殺しようとしたけれど死にきれず、行き場がないんです」。近藤さん夫婦の自宅へ招き、一緒に暮らすことにした。女性は、育った環境から自分を「いらない人間だ」と思っているらしかった。

 誕生日に、ケーキを用意してあげた。女性は「今まで誕生日を祝ってもらったことがなかった」と、声を上げて泣いた。近藤さんは、喜びが大きいほど、その裏にある悲しみの深さを思い、胸が痛んだという。本当に苦しんでいる人に手を差し伸べる方法はないか。話を聞いてあげるだけでも救いになるのではないか――。その女性は家族のように暮らすうちに表情が明るくなり、1年後に結婚した。

 開設当初は妻の文子さん(71)と2人で電話を受けていたが、活動を長く続けるため、3年後には相談員の養成を始めた。98年には、市民活動として定着させる目的で社会福祉法人を設立。近藤さんが自殺予防について話す講演会も県内各地で開いている。

 活動を始めて間もない80年、県内の自殺者は188人と47都道府県で6番目に多かった。それが03年には最少(165人)に。全国の自殺者数が80年は2万542人、03年は3万2109人と増えているのを見ると、徳島の減少ぶりがわかる。県保健福祉政策課の黒石康夫課長は「熱意と覚悟のいる活動を根気強く続けてきた、近藤さんたちの力が大きい」と話す。

 課題は、相談者が電話しようとしても、話し中でつながらない時が多いことだ。

 06年、こんなことがあった。ある自殺者の携帯電話を警察が調べたら、発信履歴にいのちの電話の番号が残っていたが、つながっていなかったことがわかった。相談員や電話機を増やして24時間対応にするのが、近藤さんの今の目標だ。

 10月27日に、東京で保健文化賞の表彰式がある。

     *   *

 県自殺予防協会は、30周年記念の「ありがとう講演会」を開く。近藤さんが活動を振り返り、課題を語る。10月30日午後7時、徳島市藍場町2丁目のあわぎんホール(県郷土文化会館)▽31日午後2時、阿南市羽ノ浦町中庄の市情報文化センター(コスモホール)▽11月1日午後2時、三好市池田町の市保健センター。無料。

(2009年9月30日 朝日新聞)


本が売れない背景と出版流通の現在・未来探る (3)

【なぜ本は売れないのか】 (下) 新刊点数が増え、どれを手に取ればいいのか

■ランキングの罠

 詩人でエッセイストの木坂涼さんは言う。

 「書店にいってもこれはという本が手に入ることはめったにない。私の場合は、はやっているものを読みたいという読書ではないので最近は本を求めるのはもっぱら古本屋さん。そこでいい本がみつかると、それが私にとっての新刊です」

 自身の価値観がはっきりしているからこその言葉だろう。

 本が売れない。その理由にはさまざまな見方がある。趣味の多様化、ネットの普及、新古書店の成長、書棚を置けない住宅事情…。少ないパイを奪い合うように加速する“新刊洪水”現象のなかで、読み手の選択眼の低下を懸念する声もある。

 三省堂書店神保町本店次長の岸本憲幸さんは「全体の売り上げが落ソてもベストセラーが生まれるのは、テレビなど他のメディアの影響がとても大きい。昔は、自分の見識で読みたい本を選ぶ人が多かったと思うのですが、いまは何を読んだらいいかわからない人が増えてきている」と話す。

 出版ニュース社の清田義昭代表も「いまはベストセラーのランキングをみて本を買う人が多い。消費者が惑わされてしまっている部分がある」と指摘する。ランキングは数量を示しているだけで、内容を保証するものではないのだが、「売れている」という言葉には「買っても安心」といったニュアンスがつきまとう。

 そして「ふだん本をほとんど読まない人が、どれだけ買いに走るか」がベストセラーを決める。個人的体験であるはずの読書に、ベストセラーであるかどうかは無関係なのだが…。

■「本を見る目」養う

 「一面の棚だけ見れば本屋さん。みなさん入ってから驚かれます」

 東京・羽田空港内に今年2月にオープンした土産物店「Tokyo’s Tokyo(トーキョーズ・トーキョー)」。店員の三浦聖未(さとみ)さんによると、土産物や旅行グッズとともに売られている本は100点をゆうに超える。

 ユニークなのは品ぞろえだ。こういう場所にありがちな旅行ガイド本は見あたらない。ベストセラーのランキングとも無縁。旅先の雰囲気や商品のイメージから連想される小説やエッセー、写真集が、雑貨や旅用品のそばにさりげなく置かれている。

 例えば、東北に旅立つ人向けに宮沢賢治「風の又三郎」や伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」。中国地方の棚に並べた桜庭一樹の小説「少女には向かない職業」は、仕入れたそばから売り切れるヒット作になった。

 同店の本選びを担当したのはブックディレクターで「BACH」代表の幅允孝(はば・よしたか)さんだ。「今は新刊点数が増えすぎて、読者はどれを手に取ればいいかわからない状態。紹介の仕方を工夫して本の見え方を変えることで、埋もれてしまいがちなものにも光を当てたい」と話す。

 「本棚の編集人」を自称する幅ウんのもとには、売り上げ不振に悩む既存の書店に加え、異業種店からもプロデュースの依頼が頻繁に舞い込む。一風変わった新ビジネスは、「本はどこで買っても同じ」という、これまでの常識を変えてしまう可能性も秘めている。

 読み手がそれぞれに「本を見る目」を養い、冒頭の木坂さんのように言い切れる人が増えたとき、新しい出版流通システムのかたちもまた見えてくるはずだ。

(MSN産経ニュース 2009年9月22日)


本が売れない背景と出版流通の現在・未来探る (2)

【なぜ本は売れないのか】 (中) 1000万種類超、ネット書店は2ケタ成長

■新しいシステム

 書店の棚は、各出版社が次々に刊行する新刊で飽和状態になっている。そのサイクルは早くなる一方で、じつに4割もの書籍が、誰の手にも渡らずに返本されている。明らかな異常事態が常態化してしまっている出版界だが、返本率を引き下げるための試みも動き始めている。

 「責任販売制」という新しいシステムがそのひとつだ。書店は取次会社を経て出版社から本を仕入れているが、従来の「委託販売制」では、出版社と取次会社が“配本”の主導権を握る代わりに、売れなかった本は仕入れ値と同額で返本できた。

 新システムでは、書店に仕入れの裁量権が委ねられる。返本となった場合、出版社は定価の3~4割でしか引き取らない。その代わりに、書店のócb取るマージンは委託の約1・5倍にあたる35%に上がる。

 現在、一部の商品に限られるものの小学館、講談社など10社がこのシステムを導入している。小学館は7月に刊行した児童向け書籍「くらべる図鑑」の初版7万部のうち5万6000部を責任販売とした。すぐに完売し、1週間後に増刷となった4万部も大半を責任販売にあてた。

 どちらのシステムを選択するかは書店の判断によるが、小学館マーケティング局の市川洋一ゼネラルマネジャーは「書店は売る努力をするし、出版社も企画力を磨くはず。出版界の意識革命につながってほしい」と話す。同社では11月末に発売する「世界大地図」も、初版3万部のうち2万5000部を責任販売にする予定だ。

■大型化か淘汰か

 出版不況のなか、書店の数は年々減ってきた。しかし、意外にも書店のフロア面積は増えている。出版社「アルメディア」の調査によると、平成19年5月に約1万7098店あった書店は今年5月の時点で1万5765店に減少した。だが売り場面積は137万坪から142万坪へ広がった。大型化と淘汰(とうた)が同時に進んでいる状況だ。小さな書店は徐々に消費者のニーズに応えるのが難しくなり、書店がスーパーマーケット化しているといえる。

 そんななかで、ネット書店も急成長している。アマゾン・ジャパン書籍統括事業本部の渡部高士企画・編集本部長は「2000年11月のサービス開始以来、書籍の売り上げ推移は右肩上がりの2ケタ成長を続けている」と話す。

 「1000万種類を超える品揃(ぞろ)え」を豪語するアマゾンは、千葉県の市川市と八千代市にある物流センターに加えて、8月には大阪府堺市にも新物流センターを開設した。

 渡部本部長によると、ネット書店の長所は(1)店舗面積に制約がないため在庫に厚みがある(2)検索機能で読みたい本を即座に見つけ出せる(3)予約ができて発売と同時に入手できる(4)24時間営業-など。同書店のホームページには月間約1400万人が訪れるという。

 パソコン画面という“無限大の売り場”を持つネット書店も、本の洪水の前で立ちつくす消費者への、回答のひとつであることは間違いない。

(2009年9月22日 MSN産経ニュース)


今週の各紙 2009年9月30日(水)

  =カトリック新聞(9月20日)=http://www.cwjpn.com
★司教協議会=聖職者の裁判員辞退=最高裁へ文書提出
★全国典礼担当者会議=長野=典礼暦年の意味 再確認
★日本カトリック教育学会=「連携」の可能性探る=仙台
★ブラジル人司牧者集う=難民移住移動者委=情報交換し、優先課題探る
★東京教区=心の問題でセミナー=初回は「うつ病」テーマに
★インドネシア=バンドン教区=地震被災者のため 支援基金立ち上げへ

  =キリスト新聞(9月19日)=http://www.kirishin.com
★青森地裁=裁判員の牧師 実名公表=「更生への願いこめた懲役15年」=澁谷友光さん 判決直前に裁判長へ進言
★英語『新国際訳』聖書が改定版=“語法の変化に即応する責任”
★ルーテル学院=100周年連続神学講演会でM・ルート博士=エキュメニズムの展望語る
★出版販売協会=「物語のパターンを幼い頃から」=夏期例会で松岡享子氏・吉井康文氏が対談
★キ政連=会員候補者3人が当選=衆議院選挙
★WCC予算、10年度は縮小必至

  =クリスチャン新聞(9月20日)=http://jpnews.org
★「クリスチャン情報ブック」宣教調査=帰国者クリスチャンがいる教会は3割=約2割が海外に姉妹教会
★信仰×芸術 描き続け=個展で出合える「安富ブルー」
★性教育は聖書科授業で=キリスト教主義学校調査=実践には大きな壁
★主と共に東海道500キロ完歩=祈り祈られ58教会を訪問
★人身売買問題に特別チーム=世界福音同盟が組織化
★『リフォームド神学事典』の編者ドナルド・マッキム博士来日講演


本が売れない背景と出版流通の現在・未来探る (1)

【なぜ本は売れないのか】 (上) 着いたその日に返本

■先月は340万冊

 「先月ここに返本されてきたのは、約340万冊です」

 フォークリフトがせわしく走り回る巨大施設の一角に、返本された書籍がうずたかく積み上げられている。昭和図書美女木物流センター(埼玉県戸田市)の山田貴芳所長(51)によると、新しく刊行された本が書店から戻ってくる返本率は40%に達しているという。

 小学館や集英社など一ツ橋グループの出版社の書籍と文庫は、同センターから出版取次会社を通じて各書店に届けられる。売れ残った本は逆のルートで少しずつ出戻りする。店頭に並べられた様子もなく、Uターンしてくる本も少なくない。保管するのが商売とはいえ、「なんとも寂しい気分になる」と山田所長。

 カバーを変えるなど改装して再出荷される本もあるが、保管しておいても将来的に売れないと出版社が判断すれば、返本の山は廃棄され、書籍としての役目を終える。年間約2千万冊を古紙原料としてリサイクル業者に買い取ってもらっているが、1キロ当たり十数円が現在の相場だという。

 廃棄処分を示す赤いテープを巻かれた本の束を追って、同県三芳町のリサイクル会社「富澤」を訪ねた。カバーや表紙、袋とじなどは手作業で取り去り、裁断機で本の背をザクザクと切り落とす。圧縮機から出てくる巨大な立方体には、もはや本という印象はない。製紙会社向けに出荷されていく。「書籍はリサイクルの優等生。ほぼ100%再生できるんですよ」と同社の冨澤進一専務はにこやかに語ってくれた。

■新刊増え過ぎ

 出版ニュース社が発行する「出版年鑑2009」によると、書籍の総発行部数は平成9年の15億7354万冊がピークだった。当時の新刊点数は約6万2千点。以後、発行部数は退潮傾向で昨年は14億703万冊にとどまった。一方、新刊点数は増加し続けてきた。この2年ほどは微減となっているものの、約8万点に達している。

 編集者出身で、出版界の動向に詳しい評論家の野上暁さんは「新刊点数が増え過ぎた。既刊本が店頭に滞留する期間が圧倒的に短くなっている。出版社も書店も本来はスローなメディアだったはずの本の価値を忘れてしまって、ベストセラー至上主義に走っている」と指摘する。

 新刊点数が増えて、総発行部数は頭打ち、つまり1点当たりの発行部数は減る一方。返本率の高止まりは、悪循環の象徴といっていい。

 ある出版関係者は「出版各社による『平積み』の取り合いです。いい本悪い本ではなくて、スペースを確保するために点数を増やすような状況になっている」と明かす。もはや、本が店頭でホコリをかぶるヒマもない。

 「着いたその日に返本というケースもあるようで、せっかく出版されたのに、誰にも知られずに消えていく本がいかに多いことか」

 そう嘆くのは、東京・神保町で出版社を経営する朔北社の宮本功社長だ。現行の流通システムそのものの問題を指摘する。

 「取次会社は、書店を売り上げや売り場面積などによってランク付けして新刊の配本数を機械的に決めているだけ。これだと発行部数の少ない本は小さな書店には届かない。書店が配本に頼らず、自分たちの判断で欲しい本を仕入れて売るやり方に変えていったほうがいい」

     *  *  *

 本が売れなくなった-といわれる。村上春樹「1Q84」の大ヒットなど明るい話題はあるものの、一方では雑誌の休刊も相次ぎ、出版界のムードは湿っぽい。そんななかで、現行の流通システムを見直そうという動きが出始めた。本が売れない背景と出版流通の現在・未来を探った。

(2009年9月20日 MSN産経ニュース)


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