県自殺予防協会、保健文化賞を受賞
「徳島いのちの電話」を主宰する社会福祉法人・県自殺予防協会が、保健衛生の向上に尽くした団体・個人に贈られる「第61回保健文化賞」(第一生命保険相互会社主催、朝日新聞厚生文化事業団など後援)を受賞した。深刻な悩みを抱えた人の相談に乗る活動を始めてから、今年でちょうど30年。近藤治郎理事長(70)は「相談者から寄せられるお礼の電話や手紙に支えられてきた」と受賞を喜んでいる。
いのちの電話は、徳島、美馬、阿南、三好の4市にある事務所で、約110人のボランティアが交代で相談に応じている。夫婦の不和や仕事のストレス、失業、借金、いじめ……。昨年の相談件数は1万5347件。うち「死にたい」など自殺志向が見られたのは589件あった。
開設は79年7月。徳島市昭和町7丁目のキリスト教会「希望館」の牧師でもある近藤理事長が、自宅の一室で始めた。76年ごろ、当時近藤さんが通っていた教会を訪ねてきた、20代の女性との出会いが原点だった。
「自殺しようとしたけれど死にきれず、行き場がないんです」。近藤さん夫婦の自宅へ招き、一緒に暮らすことにした。女性は、育った環境から自分を「いらない人間だ」と思っているらしかった。
誕生日に、ケーキを用意してあげた。女性は「今まで誕生日を祝ってもらったことがなかった」と、声を上げて泣いた。近藤さんは、喜びが大きいほど、その裏にある悲しみの深さを思い、胸が痛んだという。本当に苦しんでいる人に手を差し伸べる方法はないか。話を聞いてあげるだけでも救いになるのではないか――。その女性は家族のように暮らすうちに表情が明るくなり、1年後に結婚した。
開設当初は妻の文子さん(71)と2人で電話を受けていたが、活動を長く続けるため、3年後には相談員の養成を始めた。98年には、市民活動として定着させる目的で社会福祉法人を設立。近藤さんが自殺予防について話す講演会も県内各地で開いている。
活動を始めて間もない80年、県内の自殺者は188人と47都道府県で6番目に多かった。それが03年には最少(165人)に。全国の自殺者数が80年は2万542人、03年は3万2109人と増えているのを見ると、徳島の減少ぶりがわかる。県保健福祉政策課の黒石康夫課長は「熱意と覚悟のいる活動を根気強く続けてきた、近藤さんたちの力が大きい」と話す。
課題は、相談者が電話しようとしても、話し中でつながらない時が多いことだ。
06年、こんなことがあった。ある自殺者の携帯電話を警察が調べたら、発信履歴にいのちの電話の番号が残っていたが、つながっていなかったことがわかった。相談員や電話機を増やして24時間対応にするのが、近藤さんの今の目標だ。
10月27日に、東京で保健文化賞の表彰式がある。
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県自殺予防協会は、30周年記念の「ありがとう講演会」を開く。近藤さんが活動を振り返り、課題を語る。10月30日午後7時、徳島市藍場町2丁目のあわぎんホール(県郷土文化会館)▽31日午後2時、阿南市羽ノ浦町中庄の市情報文化センター(コスモホール)▽11月1日午後2時、三好市池田町の市保健センター。無料。
(2009年9月30日 朝日新聞)