2007/05

パッチギ!LOVE&PEACE

(2007年・日本/監督 井筒和幸)

 映画の舞台は、前作から6年後1974年の東京。難病を患う息子チャンス(今井悠貴)の治療のため、アンソン(井坂俊哉)一家は京都から移り住む。愛する者の命を救おうと奔走する家族。妹のキョンジャ(中村ゆり)は芸能プロダクションからスカウトを受け、芸能界入りを決意。一方、宿敵近藤(桐谷健太)らとの乱闘で知り合った国鉄職員の佐藤(藤井隆)とアンソンは、チャンスの莫大な治療費のために無謀な計画を立てる。

 キャストを一新。続編ながら、新たな「パッチギ」ストーリーとして前作を凌ぐ迫力と感動を作り上げた。アンソンの父が戦火をかいくぐりながら逃げ惑う場面は、決して美しくもなく潔くもない戦争の本質をえぐり出す。特に、たたみかけるように迫ってくるラストの舞台あいさつシーンは、涙なしには観られない。

 奈良で青春時代を過ごし、幼い頃から偏見や差別を目の当たりにしてきたという井筒和幸監督が、説教ぶることなく、今なお厳然として存在する問題をストレートに突きつける。人種、民族、歴史、戦争……。重いテーマを引きずりながら、監督独特のユーモアとアクションも忘れない。

 重病を抱える難役に挑んだ今井君のいじらしい演技が、家族の悲哀をより一層際立たせる。試写会では、「みんなでご飯を食べるシーンが大好き。ご飯も家族みんなで食べると美味しいということを実感しました」と、大人顔負けのコメント。本作の核心を見事に突いた。

 「イムジン河」が印象的だった前作に続き、今回も70年代を象徴するバンドを率いた加藤和彦が音楽を担当。副題の通り「愛」と「平和」と、監督をはじめとする製作者の情熱「パッチギ(頭突き、突き破る)」に満ち溢れた作品となった。

日本の青空

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(2007年・日本/監督 大澤豊)

 敗戦直後、新しい憲法がどのように受け入れられ人々の間に浸透していったのか。改憲論議が吹き荒れる中、その歴史的事実が置き去りにされようとしている。憲法施行60周年を迎えた今年、その誕生をめぐるドラマを描いた映画「日本の青空」が完成した。市民の手による自主上映運動が全国に広がっている。

 「月刊アトラス」編集部の沙也可(田丸麻紀)は、部数復活をかけた特集企画「日本国憲法の原点を問う!」で、在野の憲法学者・鈴木安蔵(高橋和也)を取材する中、安蔵の娘2人の証言から、戦時下での憲法学者としての苦労や、安蔵を支えた妻・俊子(藤谷美紀)の存在、そして日本国憲法誕生の舞台裏に迫っていく。

 戦後、大日本帝国憲法にかわる真に民主的な新憲法は民間人から生まれてしかるべきだという気運が高まる中、安蔵は高野岩三郎(加藤剛)、森戸辰男(鹿島信哉)らと共に民間の「憲法研究会」を結成。メンバー唯一の憲法学者である安蔵を中心に論議を重ね、完成させた憲法草案を政府とGHQに提出する。待ちに待った「日本国憲法草案」発表の朝。第一報を載せた朝刊を手に安蔵が走る。国民が目にした新しい憲法の内容とは……。

 憲法をテーマとした数々の作品と一線を画すのは、本作はドキュメンタリー映画ではないということ。あえて学術的な論法や手法をとらず、憲法をめぐるさまざまな人間模様で物語が構成される。プロデューサーの小室皓充氏も、「より多くの人に観てもらうため、劇映画にした」と期待を寄せる。

 鈴木安蔵を演じた高橋和也さんは、「この台本に出会うまで、安蔵のことを知りませんでした。わが家にいる4人の息子が大きくなった時、戦争に取られるような日本には絶対してはいけないと、この映画を通じて改めて思いました」と熱く語った。

 安蔵の両親はクリスチャン。広報担当の佐藤契さん(日基教団むさし小山教会員)によると、彼は生まれ育った小高町で、16歳まで小高町日本基督教会(現・日基教団小高伝道所)に毎週通っていたという。安蔵の思想的背景には、キリスト教的ヒューマニズムが脈々と流れている。

 国民投票法案をめぐる国会での論議や「押し付け」憲法論、今後予想される改憲への流れに、一石を投じる作品である。

(2007.5.5 キリスト新聞)
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