(2005年・日本/監督 池谷薫)

 第二次世界大戦後も中国から帰国できず、山西省での内戦に巻き込まれた日本兵たちがいた。その数約2600人。その後4年間の戦闘で、約550人が戦死、700人以上が捕虜となった。戦後日本政府は、兵士たちが志願して勝手に戦争を続けたと見なし、その事実を黙殺し続けている。

 60年後の今、残留の真相を明らかにし、戦争の悲劇を後世に伝えるために、かつての日本兵たちが立ち上がった。真実を明らかにすべく中国へ渡った残留兵の一人、奥村和一さん(80歳)の目を通して、歴史の闇に葬られようとしている「日本軍山西残留問題」に焦点を当てたドキュメンタリー作品。

 1944年(昭和19年)、初年兵として山西省に送られた奥村さんは、置き去りにされた中国での戦闘で重傷を負い、捕虜となって重労働を強いられた。日本に引き揚げることができた時には、敗戦からすでに9年の月日が流れていた。しかし、母国で待っていたのは、何の補償も恩給も受けられない「逃亡兵」扱い。

 国を相手に裁判を続ける奥村さんは、初年兵教育の名の下に残虐行為を命じられた村々を訪ね、自分が「鬼」と化した現場に立つ。深く刻まれたしわが、背負ってきた重荷の大きさ、たどってきた道の過酷さを物語っている。「お金(恩給)がほしいわけじゃない。ただ真実が知りたいだけ」。

 なぜ戦友は、戦後数年経ってなお、「天皇陛下、万歳」と言って、死ななければならなかったのか。自らを殺人者にしたあの戦争とは何だったのか。加害・被害の立場を越え真実を求めようと問い続ける眼差しは、少し腰を曲げて歩く姿勢とは裏腹に、強く凛と輝いている。

(2006.7.15 キリスト新聞)