不都合な真実

(2006年・アメリカ/監督 デイビス・グッゲンハイム)

 世界教会協議会(WCC)の声明によると、温室効果ガスの影響により、「ケニア人の貴重な水源であるケニア山やキリマンジャロ山の雪や氷が消えてなくなり、干ばつと深刻な嵐が交互に起きている」という。温暖化といえば、近未来の惨劇を映像化した「デイ・アフター・トゥモロー」が記憶に新しいが、鑑賞者へのインパクトという面では本作の方がはるかに大きい。

 主人公は、アメリカの元副大統領アル・ゴア。地球が瀕する数々の危機的状況に心痛めた彼は、「これは政治問題ではなく、人類としてのモラルの問題だ」として、世界中でスライド講演を開いてきた。彼にとって環境問題は、大統領選での落選、息子の交通事故を通して示された召命とも言うべきライフワークとなっている。日本の一部政治家が口にする「マニフェスト」とは重みが違う。

 スライドには、近年立て続けに起きる異常気象と、「聖書の黙示録を思わせる」その惨状が映し出される。さらに、グラフやアニメを駆使したプレゼンは、講演会場の聴衆と一緒に聞き入ってしまう説得力がある。

 映画化を進めたのは、ゴアの講演に感銘を受けた「グッド・ウィル・ハンティング」のローレンス・ベンダーと、「グッドナイト&グッドラック」のジェフ・スコル。監督は「トレーニング・デイ」の製作総指揮デイビス・グッゲンハイム。この作品が、世界で最大の温暖化要因を排出ながら、自国の経済的理由で京都議定書から離脱したアメリカで作られ、社会的反響を呼んでいることに大きな意義を感じる。

 最後に列挙される「わたしにできること」の一つ。「人々が変わる勇気を持てるように祈りましょう」。

(2007.1.13 キリスト新聞)

蟻の兵隊

(2005年・日本/監督 池谷薫)

 第二次世界大戦後も中国から帰国できず、山西省での内戦に巻き込まれた日本兵たちがいた。その数約2600人。その後4年間の戦闘で、約550人が戦死、700人以上が捕虜となった。戦後日本政府は、兵士たちが志願して勝手に戦争を続けたと見なし、その事実を黙殺し続けている。

 60年後の今、残留の真相を明らかにし、戦争の悲劇を後世に伝えるために、かつての日本兵たちが立ち上がった。真実を明らかにすべく中国へ渡った残留兵の一人、奥村和一さん(80歳)の目を通して、歴史の闇に葬られようとしている「日本軍山西残留問題」に焦点を当てたドキュメンタリー作品。

 1944年(昭和19年)、初年兵として山西省に送られた奥村さんは、置き去りにされた中国での戦闘で重傷を負い、捕虜となって重労働を強いられた。日本に引き揚げることができた時には、敗戦からすでに9年の月日が流れていた。しかし、母国で待っていたのは、何の補償も恩給も受けられない「逃亡兵」扱い。

 国を相手に裁判を続ける奥村さんは、初年兵教育の名の下に残虐行為を命じられた村々を訪ね、自分が「鬼」と化した現場に立つ。深く刻まれたしわが、背負ってきた重荷の大きさ、たどってきた道の過酷さを物語っている。「お金(恩給)がほしいわけじゃない。ただ真実が知りたいだけ」。

 なぜ戦友は、戦後数年経ってなお、「天皇陛下、万歳」と言って、死ななければならなかったのか。自らを殺人者にしたあの戦争とは何だったのか。加害・被害の立場を越え真実を求めようと問い続ける眼差しは、少し腰を曲げて歩く姿勢とは裏腹に、強く凛と輝いている。

(2006.7.15 キリスト新聞)

戦場のアリア

(2005年・フランス、ドイツ、イギリス合作/
 監督 クリスチャン・カリオン)


 1914年。第一次大戦下のフランス北部の村デンソー。フランス・スコットランド連合軍と、ドイツ軍が連日砲弾を鳴り響かせている。クリスマスだけは家族のもとへ帰りたいと兵士の誰もが願っていたが、戦況はますます熾烈さを極めていた。やがて訪れたクリスマスの夜。ドイツ軍には10万本のクリスマス・ツリーが届けられ、スコットランド軍の塹壕からはバグパイプの音色が聞こえてくる。そして…。

 大戦下のクリスマス・イブに、互いに敵対する者たちが、クリスマス・キャロルの歌声をきっかけに戦闘の最前線で歩み寄り、挨拶をし、フランスのシャンパンで乾杯したという実話に基づく奇跡の物語。フランス出身の監督は、「クリスマス休戦」として敵国と友好を結んだ勇気ある兵士の哀しい運命に心を打たれ、彼らへのオマージュとしてこの史実を映画化したという。

 心温まるエピソードだが、敵同士が手を取り合って歌ったという美談では終わらない。兵士たちの束の間の交流は、たちまち軍や教会の上層部に知れわたり、さらに過酷な運命へと彼らを引きずり戻すことになる。昨日まで言葉を交わし、杯を酌み合った同じ人間が銃を突きつけ合う。戦争のなんとむごく、虚しく、愚かしいことか。 「それは、本当に神の道なのでしょうか?」。戦場で祈りをささげる神父の叫びは、今なお大義と美名の下に剣を振り上げる国々にも向けられている。

 昨年フランス観客動員数第1位を記録。豪華な俳優陣の深みのある演技も見もの。兵士たちを癒すソプラノ歌手アナの声を、オペラ界の頂点で活躍するナタリー・デッセーが担当。天使のような澄んだ歌声が観る者を魅了する。

(2006.5.20 キリスト新聞)
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