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(2007年・日本、中国合作/監督 李纓)

 靖国神社をテーマにした新たなドキュメンタリー映画が、この春誕生する。監督は、日本在住19年の李纓(リ・イン)。10年にわたる取材の中で、靖国神社の「ご神体」である日本刀と、その鋳造を再現する現役最後の刀匠に焦点を当てながら、偏狭な国家主義に縛られることなく、あくまで冷静かつ客観的に「靖国」の本質を見極めようとする。

 合祀差し止めを求める裁判の原告で、「憲法二十条が危ない!緊急連絡会」の発起人でもある菅原龍憲さん(浄土真宗本願寺派住職)も出演。戦死した父(先代住職)が合祀されている菅原さんは、「僧侶も戦争に駆り出されたということを忘れてはならない」と、軍服姿の遺影を掲げ続ける。「靖国神社は、戦前から何一つ変わっていません」というひと言が重く響く。

 終盤、60余年前の史実を淡々と描く記録映像の連続に、これは過去の光景ではないかもしれないという錯覚に陥る。首相の参拝に異議を唱える青年に「中国に帰れ」と連呼する男性。戦後60周年の集会であいさつした都知事に送られる盛大な拍手。「南京大虐殺を否定する署名を」と熱心に呼びかける女性。果たして、「何一つ変わっていない」のは靖国神社だけだろうか。

 終始、言葉少ない刀匠が、神社に対する思いは小泉元首相と同じだとしながら、「戦争は嫌ですね」とつぶやく。まばゆい夜景の中、靖国神社だけが茫々と浮かび上がる。

 日本・中国・韓国の3カ国による合作映画として製作された本作は、ある一国の立場に立つことも、ある一つの主張を声高に叫ぶこともなく、それでいて強烈なメッセージを放つ。

(2008.4.19 キリスト新聞)